
デートハイキングに行こう。#02三浦半島・大楠山 「山のあとの、川、海、夕陽、そしてプリン。最高か。」
気になるあの人と、はたまた気の知れた相方や友人とハイキングへ! デート、つまり「大切な人と一緒に歩く」をテーマにした、低山トラベラー大内征さんのミニ連載。第2回は三浦半島の大楠山。コースにある3つのハイライト、そして夕陽を味方につけて最高の思い出に。
文・写真=大内 征
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大切な誰かに楽しんでもらう山行は、自分も楽しめる山行でなければならない。なぜなら、案内する自分自身が腕時計ばかりを気にしていては、相手だってシラけてしまうだろうから。悩ましいのは、今日一番のハイライトを山行中に設定するか、それとも下山後に設定するかである。もちろん山歩きの最中は楽しいことが大前提だ。いちばんの盛り上がりをどこにもってくるか、その設定が腕の見せどころとなる。
三浦半島は、首都圏からのアクセスがすごく便利で、とても小さな半島。自然景観としても文化的景観としても、見どころには事欠かない。電車で楽しめる低山がたくさんあって、首都圏のハイカーからは絶大な人気を集めている。地元のバスを組み合わせれば、縦横無尽に半島の隅々まで行けるのもいい。
たとえば、大楠山(おおぐすやま)は誰かを案内するのに絶好なフィールドだ。三浦半島の最高峰であり、標高は241mという低さ。そのわりに山頂からの眺めはよいときた。広々とした頂は緑あざやかな芝生に覆われていて、それがとても好印象。天気がよければゴロンと寝転びたくなる(ぼくはゴロンだけではすまなかった)。忙しない日々と喧騒から逃れられない首都圏の現代人にとっては、大切な相手とのんびりとした時間を過ごせる貴重な低山。それが大楠山なのだ。
とまあ、ここまでは、いわゆる低山ハイクの楽しみ方の範疇。おいおい今日一番のハイライトはどこにいったんだ? そんな声が聞こえてきそうだが、それは下山の方に設定している。ポイントは3つ。
ひとつは、登山口に流れている前田川(まえだがわ)の存在だ。小さなせせらぎに沿った遊歩道が、めちゃめちゃいい。飛び石があったり、木道があったり、森と花が茂っていたりする。ちょっとしたアスレチック感に加えて、小さくない冒険感と癒やし効果まである。ここを山歩きのクライマックスにとっておこう。残すところは前田橋バス停まで住宅街を歩くだけと思わせておきながら、じつは意外な環境の変化が待っている、というコース設定だ。これ、めちゃめちゃ楽しいはず。
もうひとつは、やっぱり海。ここは小さな半島なのだ。前田川遊歩道のあとは、前田橋バス停をそのまま通過して、立石海岸に向かおう。タイミングがよければ、沈みゆく夕陽に秀麗なシルエットを浮かび立てる富士山が、相模湾の先にバッチリと眺望できる。ああ、なんて豊かなんだ。あまりのロマンチックさに、あなた自身も心を射抜かれること間違いなしだ。
そしてとどめが、「マーロウ秋谷」本店の存在。いわずと知れた、手作りビーカープリンの専門店である。さすがの本店、品ぞろえは豊富。プリン以外のお菓子も多い。これらをお土産に持たせてあげたら、きっと喜ばれる。もちろん自分のお土産も忘れてはならない。重くなるけど。レストランも併設されているし、段取りが上手ければ、素敵な一日を“ハイク”できるだろう。
ちなみに、登り口は山の西側の前田橋か芦名(あしな)のバス停からがベター。東側の阿部倉も、山頂までの距離は短めだ。長く歩ける相手なら、京急長沢駅(けいきゅうながさわえき)から三浦富士(みうらふじ)と武山(たけやま)を経て、南葉山霊園から山頂にまわりこむコースが超オススメ。およそ16km、6時間強の道のりだから、体力はそれなりに必要となる。その分、コミュニケーションがたくさんとれるというものだ。打ち解けたタイミングで山頂を経ると、川、海、夕陽、そしてプリンが待っている。ごほうびが過ぎる。最高か。
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プロフィール
大内 征(おおうち・せい)
低山トラベラー、山旅文筆家。歴史文化を辿りながら日本各地の低山・霊峰をたずね、自然や人の営みに触れるローカルハイクの魅力を探究。高山のピークハントだけではない“文化的な歩き旅”の情景を、文筆・写真・講演などで伝えている。NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」は10年目。NHKBS「にっぽん百名山」等の番組出演、近著に『低山からはじめるソロハイク超入門』(山と溪谷社)がある。熊野古道・サンティアゴの道 共通巡礼アンバサダー。
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