登山靴に合わせた靴下とインソールの選び方 -岩稜・雪山登山編-

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ハイキングのような軽登山に慣れてきたら、北アルプスのような標高が高く岩場の多い山や、雪のついた冬の山に登ってみたくなる人もいるだろう。そのような、ときにリスクを伴う登山では、足元はどんな装備で臨めばいいか。さかいやスポーツ 斎藤さんに、標高の高い山や岩稜帯、雪山を歩く際に適した登山靴、靴下、インソールの選び方を聞いた。

取材/文=辻 歌

標高が高く、岩場の多い山に適した靴の選び方

テクニカルな登山に適した靴もそろう、さかいやスポーツ シューズ館


ライターT:前回は、日帰りハイキング・トレッキング向けの足元の装備についてうかがいました。次のステップとして、急峻な岩の尾根が続く岩稜帯への登山や、雪山登山を想定した登山靴、靴下、インソールの組み合わせについて教えてください。

斎藤さん:北アルプスに代表される、標高が高く岩稜のあるような山へ行く場合、靴選びはより慎重に行う必要があります。ソールが柔らかく、足首まわりのサポートがあまりないトレッキングシューズよりも、ソールが硬いハイカットの登山靴を選ぶほうがいいでしょう。くるぶしまでしっかりホールドするためサポート性に優れているのがハイカットタイプの特徴。ソールの硬い靴は剛性が高く、岩場での歩行や重い荷物を担いだ状態でも安定感があります。「ライトアルパインブーツ」といった靴がこれにあたりますので、自分がどのような季節や山域で使うかをよく考えて選んでくださいね。

ライターT:たとえば北アルプスでも、季節やルート、泊まり方などで靴選びも変わってきますよね。

斎藤さん:そうですね。先々にどの程度までチャレンジしてみたいかも含めて、店頭で相談してみてください。冬に雪がついた山で履く靴は夏山とまったく異なるので、後ほど紹介しますね。

 

剛性の高いハイカットの登山靴に適した靴下とは

ライターT:では、ハイカットで剛性が高いタイプの登山靴に合わせる靴下とインソールは、どのようなものがいいのでしょうか?

斎藤さん:基本的な考え方としては、靴下、インソールともに「ハイキング・トレッキング編」でご紹介したことと同じです。インソールは、靴を履いていて違和感があるなら「ハイキング・トレッキング編」と同じタイプのものを試してみてください。
靴下を選ぶポイントは、「ムレないソックス内環境を作る」ために、吸湿性に優れたウールをブレンドした素材のものを選ぶこと。靴擦れなどを軽減するには、足と靴下の一体感を高めるためにフィット感のあるものを探すことが重要です。

さまざまな登山スタイルに対応するソックスがラインナップ


ライターT:ハイキング・トレッキング向けのシューズより靴が硬くなる分、靴下選びで気をつけたほうがいいことは?

斎藤さん:靴の剛性が高くなるということは、足に当たる部分も硬くなりますから、クッションとして中厚手以上の靴下を履いて肌への当たりを緩和してあげることが大切ですね。

ライターT:登山用靴下の厚手タイプは、どういう場合に選ぶといいのでしょう?

斎藤さん:登山靴の足当たりが悪くて足首などが痛む場合に、厚手の靴下をチョイスするといいですよ。靴擦れするケースの大抵は、靴と足の間に隙間ができることが原因です。そこが歩くたびに擦れて痛くなるので、靴と足の隙間を埋めることが重要。靴擦れで悩んでいる人は、靴下を厚くしてみると解決するかもしれません。

ライターT:靴下といえば、特に泊まりがけの山行になるとニオイの問題も気になります・・・。

斎藤さん:標高の高い山を目指すとなると、山行が長時間・長期間になることもあるから、ニオイを含めた快適性も大事です。その点でも、ウールという繊維はとても優秀。ウールには天然の防臭・抗菌効果が備わっているので、長く履いていても臭くなりにくいんですよ。

ライターT:長期の縦走登山のときに、これがあるといい! という靴下はありますか?

斎藤さん:山行中に血行不良を起こしたり、むくみがひどくなったりすることが多いなら、適度な着圧があるタイプもおすすめです。足裏のアーチをサポートしてくれたり、ふくらはぎを支えてくれたりする着圧タイプもあります。

ライターT:機能性ソックスを履くことで快適に登山できるなら、ありがたいですね。

斎藤さん:快適性を高めるという意味では、左右非対称の登山用靴下もいいでしょう。お客様からよく「登山用で5本指ソックスはないの?」と聞かれるのですが、登山用の靴下はある程度の厚みが必要なので、5本指タイプは作りづらい。その代わり・・・とご紹介するのが、この左右非対称モデルになります。右足・左足それぞれの形に合わせた構造になっているため、指を自由に動かしやすいという点で快適です。

左右非対称タイプでアーチに軽くサポートがある、キャラバンの「RLメリノ アルパイン」

 

雪山用の登山靴に合わせる靴下とは

ライターT:次は雪山での靴下選びですが、これは特に失敗できないですね・・・。

斎藤さん:夏山で足がムレるのもキツいけど、雪山だと体の冷えに直結して辛い。自分のかいた汗で冷えたら悲惨ですからね・・・雪山では特に、「汗処理」機能を優先して、そもそも冷やさないようにすることが大切です。そのためには「ハイカットの登山靴に適した靴下とは」で紹介したことと同じで、ウールが入っていて吸湿性が高いものを選ぶといいでしょう。ウールは、保温性・吸湿性の両方でメリットがある繊維なのです。

ライターT:選び方の基本は同じですね。雪山用に何かプラスするなら?

斎藤さん:条件によっては、アンダーソックスを履くのも有効です。履くことによって、靴下の履き心地が悪くなる場合もあるので、あくまで好みで合わせてみるという前提ですが。
アンダーソックスには2タイプあって、1つめは「汗処理」をしてくれる「はっ水系」。かいた汗の湿気をアンダーソックスの外に排出して、肌戻りを少なくできるので、汗冷えを軽減できるのが魅力です。2つめは、保温性を上げる「発熱系」。発熱する繊維がブレンドされているからほんのり暖かさが感じられるけれど、よく心配されるほどムレた状態にはなりません。

撥水効果のあるファイントラックの「スキンメッシュソックス」

 

雪山用の登山靴は保温性が大事

ライターT:雪山用の登山靴は、3シーズン対応の登山靴とはどう違うのでしょうか。

斎藤さん:いわゆる「ライトアルパインシューズ」というものが、春・夏・秋の3シーズン対応の登山靴。製品によっては中程度の難易度の雪山なら行ける4シーズン対応の登山靴もあります。雪山対応のものはアイゼンをつけることを想定して作られているので、ソールが非常に硬く、靴の前後または後ろのみにコバと言われるアイゼン装着用の凹みがあるのが特徴です。厳冬期の3000m級の山にも対応できる雪山用の登山靴は、4シーズン対応よりさらに保温性・断熱性が高く作られているもの。アウターとインナーが一体化したものが「シングルブーツ」、アウターと取り外し可能なインナーで構成されるのが「ダブルブーツ」です。

ライターT:ゲイター付きのものが「ダブルブーツ」ではないんですね。

斎藤さん:そうですね。「ダブルブーツ」はインナー部分の保温性が高いので、厳冬期の北アルプスなどにも対応できます。

左が「シングルブーツ」、右がインナーが取り外せる「ダブルブーツ」


斎藤さん:「シングルブーツ」で本格的な雪山登山をする場合、保温性が足りないので、ネオプレーン素材のソックスを履くことで保温性を補うといいでしょう。アルパインクライマーは動きやすさを重視するために、反応力が高い「シングルブーツ」を選ぶ傾向にあります。「シングルブーツ」だと内側にライナーがなく冷えやすいので、ネオプレーンなどで保温性をプラスするといいですね。ネオプレーン素材なら外からの冷気を遮断し、体温を循環させることで足を冷やさないようにできます。ただ、ムレて、すごく臭くなりますが・・・。

ザ・ノース・フェイスのネオプレーン素材ソックス「アルパイン クライマー ソックス」

ライターT:雪山用の登山靴は、インソールも専用のものに変えたほうがいいですか?

★インソール選びの基本は前回の記事で

斎藤さん:保温性が足りていない場合、「保温系」のインソールを入れるのも一つの案です。最終的に足元の保温性は、靴の断熱性をしっかりしないと、どれだけ中を暖かくしても低くなってしまいます。

ライターT:「保温系」のインソールとは、どのようなものなのでしょう。

斎藤さん:今、さかいやスポーツ シューズ館で取り扱いしているのは体のバランスを整えて負担を減らす「補正系」インソールの延長上にあるもので、体のバランスを整えて補正もしてくれる「補正系」かつ「保温系」。もちろん、保温機能に絞ったインソールも販売されています。

ライターT:具体的に、どのような機能があるのですか?

斎藤さん:大きく分けると、アルミを使って輻射熱で保温性を上げるものと、シートが汗を吸湿することで熱を出してくれるものの2タイプです。とはいえ、いずれも「熱を出す」というより、多くは「外からの冷気を遮断する」というイメージ。言い換えると、「足をすごく暖かくする」というより「すでに足が持っている体温を下げないようにする」という感じでしょうか。

靴内の温度を寒い環境下でも快適に保ちやすい「保温系」のインソール


ライターT:インソールを入れただけでポカポカしだすということではないのですね。

斎藤さん:断熱効果が高くて、足が冷えにくくなっているのが「保温系」のインソールですね。なぜかというと、雪山登山のような動きが激しい運動だと、ときにシューズ内が暑くなりすぎることがあるからです。たとえばラッセルが必要な状況では、汗を大量にかきますよね。そのときにインソールだけ外すことはできないし、汗をかいたままでは汗冷えの可能性が高くなる。雪山経験を何度かして、自分に必要だと感じる場合にプラスしたほうがいいアイテムです。

 

目的別・登山におすすめの足元コーディネート

ライターT:標高が高く岩場の多い山と雪山におすすめのシューズ・靴下・インソールの3点セットを、それぞれ教えてください。

斎藤さん:まず、岩稜帯が多かったり縦走したりするときの登山に向いているのは、剛性があってハイカットのアルパインブーツ。もともとクライミング向けに作られたもので、足型も細めのタイプです。しっかり締まって、靴の中で足がズレ動かないほうがいいから、靴下は少し着圧がかかってフィット感が高いものを。長時間・長期間にわたり履いても脚のむくみがでにくいのも着圧タイプの魅力です。インソールは「ハイキング・トレッキング編」と同じで、「補正系」のなかでサポートの加減が異なる3種類から足の状態に応じてアーチの高さ選ぶと、より快適で長時間の山行でも疲れにくくなるでしょう。

 

製品情報

登山靴 スポルティバ「トランゴタワー GTX」

サイズ:38〜48(24.3cm〜30.3cm)
重量:700g(片足)
本体価格:44,800円(税別)

靴下 ホシノ「O2-MW202 メリノウール・オブリーク型」

サイズ:S(22.0〜24.0cm)、M(24.0〜26.0cm)、L(26.0〜28.0cm)
素材:ウール、ナイロン、ポリエステル
本体価格:3,300円(税別)

インソール シダス「3フィート・アクション(ロー・ミドル・ハイ)」

サイズ:XS(22.0cm〜23.0cm)、S(23.5cm〜24.5cm)、M(25.0cm〜26.5cm)、L(27.0cm〜28.0cm)、XL(28.5cm〜29.5cm)XXL(30.0cm〜31.0cm)
本体価格:各5,900円(税別)

 

ライターT:冬の雪山向けだと?

斎藤さん:靴自体に保温性があって、12本爪のアイゼンがしっかり装着できる構造になっているシューズが必須。これから雪山を始める方なら、動きやすいシングルタイプの靴で難易度の低い山を登るところから始めるのがいいかと思います。シングルタイプの保温性を、靴下やインソールで補うと、より快適に。靴下は、発熱する繊維が入っていてウール混の靴下を合わせるのがおすすめです。インソールは断熱性と、靴下と同じように発熱する繊維が練り込まれているものを。足冷えをなるべく減らすのが、雪山登山を楽しむコツですよ。

 

製品情報

登山靴 スカルパ「モンブランプロ GTX」

サイズ:39〜48(24.5cm〜31.5cm)
重量:910g(片足)
本体価格:53,000円(税別)

靴下 ミズノ「ブレスサーモウール 極厚パイルソックス(メンズ)」

サイズ:フリーサイズ(25.0〜27.0cm)
素材:ウール、ナイロン、その他
本体価格:2,600円(税別)

インソール ホシノ「B+HF Heat Foot」

サイズ:3S(21.5〜23.0cm)、SS(23.0〜24.0cm)、S(24.0〜25.0cm)、M(25.0〜26.0cm)、L(26.0〜27.0cm)、LL(27.0〜28.0cm)
本体価格:各5,400円(税別)

 

次回は、「登山靴に合わせた靴下とインソールの選び方 -トレイルラン・ファストパッキング編-」です。装備を軽量化して自分らしいスタイルで山を楽しむというトレイルランやファストパッキングは、ゆっくり歩く登山と足まわりの装備も変わってくるもの? 気になる足元事情を、さかいやスポーツ シューズ館 斎藤さんにうかがいます。

 

プロフィール

斎藤 勇一(さかいやスポーツシューズ館)

アウトドア、ヤマの業界で25年超の経験を持つ長老的存在(笑)。
シューズ系の売り場に長く在籍し、さまざまな登山者の足元を見続けたせいで、その人の姿勢や歩き方から身体のクセなどを見抜くイヤらしいヤツ。
アウトドアスポーツ全般をこなすが、最近はイマドキ流行りの軽量装備で一人テント泊登山を楽しむ。

さかいやスポーツ

創業以来、約60年にわたり神田神保町で全国の登山家やアウトドアマンに愛されている登山用品店。ウェア、シューズ、ギアなど品目別の専門館を6店舗展開。ウェアや道具に詳しいスタッフが丁寧に解説してくれるので、ビギナーでも安心。

住所/東京都千代田区神田神保町2-48
TEL/03-3262-0432
営業時間/11:00~20:00
アクセス/神保町駅A4出口より徒歩6分、JR中央・総武線水道橋駅東口より徒歩8分

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