休み休み登ってもいいんじゃない?沢登り的アイスクライミングのすすめ

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「アイスクライミングをやっています」なんて口を滑らせると、「スゴイですね〜」と言われることが多々あります。でも、私にスーパークライマーのような登攀能力はありません。それでもアイスクライミングを楽しめているのは、見た目を気にしていないから。沢登りのように自由なスタイルで、気になるアイスクライミングに挑戦してみましょう!

文・写真=吉澤英晃

アイスクライミングを始めたのは2012年から。不慣れなときから先輩にしごかれて天然の氷柱をリードしていた(西上州、相沢奥壁の大氷柱/2015年)

 

2004年に沢登りと出会って早19年、飽きっぽい私にしては、良くもまぁ長く続けていると思います。

沢登りの魅力は、ひとつに自由度の高さがあります。たとえば滝を登るとき、ルートやスタイルに決まりはありません。壁に穴を開けて人工物を埋めるような破壊行為はダメです。それさえ守れば、アブミを使って人工登攀をしてもいいし、パートナーの膝や肩に乗って段差を越えるのもオッケー。誰かに後ろ指を指されることもありません。

沢登りの自由な登攀スタイルは、自分の性分に合っているのでしょう。多くの場合、決められたルートをある意味限定的な方法で登るフリークライミングは、どうも沢登りほど好きになれません。フリークライミングも沢登りと同じタイミングで始めましたが、外岩でリードできるグレードは、いまでも5.10aが精一杯。苦手意識があると遅々として上達しないものです。

そんな自他共に認めるヘッポコクライマーでも、冬になると毎年アイスクライミングを楽しんでいます。さまざまな考え方がある中で、私にとってアイスクライミングは沢登りの延長線上にあって、フリークライミングのように「オンサイトやレッドポイントをめざす」というよりは、「自由なスタイルで、とりあえず登れればいいじゃん」という感覚のほうが強いのです。だからアイスクライミングは好きと言えるし、それなりに上達しているのでしょう。

そんな背景もあって、「アイスクライミングを楽しむのに、フリークライミングの強さはそれほど必要じゃない」というのが私の勝手な持論です。アイスクライミングに興味を持っている方がいたら「私、クライミングが上手じゃない……」と尻込みする前に、まずはやってみる、これに尽きます。

ただ、アイスクライミングを積極的に楽しむには、いつかはリードする必要性に迫られます。自力で登れるからこそ計画に自由度が生まれて、どんどんおもしろくなるのです。でも、ご安心を。私みたいな登攀能力のない人間でも、落ちるリスクをコントロールしながらリードする方法を今回特別にお教えします。

過去には北海道まで遠征して2ピッチのロングルートを登ったことも(小樽、雷電海岸4ルンゼ/2015年)

 

まず、いちばん大切なことは、見栄を張らないことです。無益な自尊心には上から蓋をしてしまいましょう。それから、カッコ良く登ろうなんて考えず、あの沢登りの登攀スタイルのように、どんな手を使ってもいいから登りきることだけに集中します。そのときに重要になるのが、アックステンションというテクニックです。

アックステンションとは、打ち込んだアイスアックスに、ハーネスに取り付けたフィフィと呼ばれるフック状の登攀具を引っ掛けて、そこにぶら下がって腕を休ませる技術のこと。近頃の技術書ではまず見かけませんが、以前所属していた山岳会の先輩からアイスクライミングを習ったときは、真っ先にアックステンションのやり方を教わりました。

アックステンションを登攀の手段として持っていると、(一通り基礎を学んだ前提で)リードするハードルがとても下がります。登りながら、腕がパンプしてきたら、すぐにアックスにぶら下がればいいのです。慣れないスクリューもアックステンションでぶら下がった状態なら簡単に打てます。

たまに、アックスにぶら下がっていると、すぐ近くをデキるクライマーが颯爽と登ってくるかもしれません。そのときは恥ずかしがると惨めになるので、目が合ったら微笑みかけて「いや〜、アイスクライミングって難しいですね〜」とおちゃらけておきましょう。

好きこそ物の上手なれと言うように、どんな登り方でもアイスクライミングを楽しんで続けていると、もっと上手になりたいと思うエネルギーを糧にして、自然と上達するものです。私の場合も、徐々にぶら下がらなくてもスクリューを打てるようになり、アックステンションしなくても完登できる氷爆が増えました。

リードできる自信がついて自由に計画を立てられるようになると、ますます登るのが楽しくなる(甲斐駒ヶ岳、刃渡り沢/2021年)

 

ちなみに、アイスクライミングを楽しむには、他にもポイントが2つあります。

ひとつは、お金をかける覚悟を持つことです。最初はレンタルで楽しめても、いつかはマイギアが必要になり、アイスアックス、アイスクライミング用のアイゼン、スクリューを数本など、一式揃えると十万円以上もかかってしまいます。独身なら簡単かもしれませんが、家庭を持っていると覚悟する前に許可が必要になるでしょう。もしかしたら、そこで立ちはだかる壁はどんな氷爆や氷柱より突破が難しいかもしれません。残念ながら画期的な攻略法は思いつかないので、登り方は各自で見つけてください。

もうひとつは、仲間を見つけることです。アイスクライミングはひとりで始められませんし、続けるにも稀有な趣味を一緒に楽しめる仲間が必要です。とはいえ、幸いなことにアイスクライミングが活動の一部になっている山岳会はまだたくさんあるし、慣れた人ならSNSで探すこともできるでしょう。それぞれのやり方で良き出会いを見つけて、アイスクライミングライフをエンジョイしてください。

プロフィール

吉澤 英晃

1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出会い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンを約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。

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