登山靴に合わせた靴下とインソールの選び方 トレイルランニング・ファストパッキング編-

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山歩きに慣れてくると、自分らしいスタイルで山を楽しみたくなる人もいるだろう。極限まで装備を軽量化して山を駆け抜けたい人や、軽量の装備で軽快に山を歩きたい人、そんなスタイルを目指す登山者はどんな登山靴、靴下、インソールを選ぶといいのか。さかいやスポーツ 斎藤さんにトレイルランニング、ファストパッキングに適した足元の装備について聞いてみた。

取材/文=辻 歌

トレイルランニング・ファストパッキングに適した靴の特徴

ライターT:近年のブームでもあるトレイルランニングやファストパッキング。ハイキングやトレッキングといった登山とは、装備が変わってきますよね。

 

さかいやスポーツ シューズ館の「トレランシューズ」コーナー


斎藤さん:未舗装の山野を走るのが、トレイルランニング。山を歩くのではなく走るから、できるだけ身軽な装備が求められます。ファストパッキングは、装備を軽量化することでより長く、より早く移動することを目的とする登山スタイルのことです。この2つは異なるアクティビティですが、共通しているのは、装備を極限まで減らすという点。もちろん単純にモノの量を減らすだけでなく、そのアクティビティに合った機能に絞り込んで装備を厳選するということです。

ライターT:靴だと、どのような特徴がありますか?

斎藤さん:トレイルランニングには専用の靴、いわゆる「トレランシューズ」があります。走ることを前提に作られているから、ランニングシューズと同様にローカットで軽量。山道などの不安定な未舗装路に対応できるようソールが丈夫で、滑りにくいようグリップ力が強いのが特徴です。防水性を備えたモデルもありますが、基本的には防水対応でないものが多いというのも特筆すべきところでしょうか。なぜなら、登山に比べて運動量が増えるぶん発汗量が多いので、靴の通気性を良くしてムレにくくするという考え方だから。防水性を高めて濡れることを嫌うより、濡れたらどんどん乾かして快適性を維持するのです。

インソール一体型のトレイルランニングシューズ。こちらのタイプはインソールの交換不可


ライターT:雨だと濡れてしまうけれど、乾くのは早いですよね。

斎藤さん:防水仕様でない靴は防水透湿性素材(メンブレン)がないぶん通気性が高いから、そもそも汗で靴の中が濡れにくいんです。それに加え、シューズの構造などが保水しにくくなっているため、たとえ濡れてもすばやく乾くというわけです。

ライターT:「ファストパッキング」のスタイルに、トレイルランニングシューズを取り入れている人が多い気がします。

斎藤さん:装備全体の軽量化を考えると、足元も軽いトレイルランニングシューズにするのは合理的。山道に対応できるソールなどが採用されているので山歩きもしやすく、「ファストパッキング」を目指す人だけでなく、低山のハイカーでも多く見かけるようになりました。

 

トレイルランニングシューズを履くときに選びたい靴下

トレイルランニングシューズに合う靴下も多彩にそろう


ライターT:トレイルランニングシューズを履くときにおすすめの靴下を教えてください。

斎藤さん:靴の速乾性を損なわないために、靴下にも速乾機能があるといいでしょう。特に走るなど運動量の多いシーンでは、速乾性の高い化学繊維がベースの靴下が乾きやすくて快適。また、天然繊維の中でも通気性、吸湿性、放湿性に優れたラミーや和紙繊維を使ったものは、速乾性があり汗の湿気も残さないのでおすすめです。

ライターT:靴下の丈は、どのくらいがいいのでしょう?

斎藤さん:くるぶしが露出していてぶつけると危険なので、くるぶしが隠れるミニクルー丈以上を推奨しています。スニーカーソックスのような浅めのタイプだと、靴の中で靴下がズレてしまうこともあるので、あまりおすすめできません。

ローカットの靴には、くるぶしを覆う丈の靴下を合わせて


ライターT:走らない登山のときにトレイルランニングシューズを履くなら、どのような靴下がいいですか?

斎藤さん:走るほどスピードが早くなく、運動量も少ない場合、そこまで速乾性を求めないならウール混の靴下もおすすめ。「ハイキング・トレッキング編」でご紹介したように、ウールは吸湿性に優れているからムレにくく、さらに靴に通気性があるぶん快適です。

ライターT:トレイルランニングをする場合、防水機能は諦めることができるかもしれませんが、登山だとちょっとツラいこともありますよね・・・。

斎藤さん:ランナーは運動量が多いし発汗量も多いので、基本は濡れたら濡れっぱなしで乾くのを待つことができるけど、ハイカーはなかなかそういう訳にもいかないから、対策は考えておいたほうがいいでしょう。そこで試してほしいのが、防水ソックスです。防水フィルムが入っているから少しゴワッとした肌触りですが、以前の防水ソックスより格段に履き心地がよくなっています。どしゃぶりの雨の中にいると冷たく感じて「濡れているんじゃない?」と思うけれど濡れてないんですよ。私は、軽量化した装備で山へ行くとき、必ず防水ソックスを持って行きます。

靴の中が濡れても足を濡らさないようにできる防水ソックス


ライターT:防水ソックスを履くタイミングは? 最初から履いていくのですか?

斎藤さん:私は、雨が降ってから履き替えることが多いです。雨の降り方や目的地までの距離によりますが、レインウェアのパンツを穿くのと同時に靴下も履き替えます。レインウェアのジャケットだけ羽織るくらいの多少の雨なら、我慢することもありますね・・・。

 

トレイルランニングシューズはインソールで軽快さアップ

ライターT:次に、トレイルランニングシューズに適したインソールについても教えてください。

★インソール選びの基本は過去記事「ハイキング・トレッキング編」で

斎藤さん:トレイルランニングをする方は、アクティビティの距離と時間が長いぶん、インソールにこだわることが多いです。「タイムを上げる」「レースで完走する」など目標があると、できるだけ体のダメージが軽減できて、パフォーマンスが低下しにくいものを・・・と考えるようです。体のバランスが悪いと足にダメージを受けすいので、バランスを改善する対策としてインソールをプラスするのがおすすめです。

ライターT:インソールの選び方は、「ハイキング・トレッキング編」と異なるのでしょうか?

斎藤さん:選び方の基本は同じです。あえて言うなら、登山靴に比べてトレイルランニングシューズは靴本体とインソールの組み合わせに工夫を凝らされていることが多いから、インソールを交換するときは必ず靴との相性を考えてほしいということ。良いインソールに替えたつもりでも、正しい組み合わせでないと、逆効果で痛みが出たり体のバランスが悪くなったりします。

アーチの高さに合わせて3タイプから選べるインソール


ライターT:こだわり派におすすめのインソールは?

斎藤さん:一人一人の足の形や特徴に合わせてカスタマイズできるインソールがあります。平らなものを足の形に合わせて成型していく、「補正系」をさらにパーソナルな形に仕上げたものです。

ライターT:どのような機能があるのでしょうか?

斎藤さん:「補正系」の考え方と基本は一緒で、土踏まずを含めたアーチ自体を正しく支えることで、体の負担を減らすという機能です。足裏部分に補強材が入っていて、その補強材で土踏まずを中心としたアーチを支え、人が持っているべき3つのアーチをしっかり支え上げることで足が立体的になります。本来、人間はカカトからではなく、つま先から着地するように体の構造ができている。つま先が地面に着いたときにアーチがちゃんと伸び上がれば、アーチがクッションのような役割を果たして着地の衝撃を吸収できます。このアーチ構造をサポートできるのが「補正系」のインソールです。

「補正系」インソール選びは、プロの意見を参考にして


ライターT:そのアーチ部分の形状を、自分の足に合ったように作れるのがカスタマイズのインソールなんですね。

斎藤さん:そうです。体に合ったアーチ部分のサポートにより、身体のバランス向上につながり、足裏の負担軽減だけではなく下肢全体の疲労軽減も期待できます。

 

トレイルランニング・ファストパッキングにおすすめの足元コーディネート

ライターT:トレイルランニング・ファストパッキングにおすすめの、靴・靴下・インソールの3点セットを教えてください。

斎藤さん:トレイルランニングシューズの中でも、とても軽くてグリップ力に優れた靴です。足裏感覚が強く、クッション性もすごくいい。軽快に履きやすい靴だから、合わせるインソールも重量が軽いことが大切に。さらに、テクニカルなトレイルやレースのようなシビアな条件で使え、どんなタイプの足にも合わせられるインソールとなると、ランニング用の薄いカスタムソールがおすすめです。そして、非防水で通気性に優れた靴に合わせ、速乾性を高めるためにはラミーの繊維を使った靴下を。こちらは、すごく薄いけれどフィット感が高くて履きやすいのが魅力です。

 

製品情報

トレイルランニングシューズ ホカ オネオネ「エボ ジョーズ」

サイズ:25.0~29.0cm
重量:204g(27.0cm片足)
本体価格:18,000円(税別)

靴下 インナー・ファクト「ラウンド型 ミドル丈」

サイズ:S(22.0〜24.0cm)、M(25.0〜27.0cm)、L(28.0〜30.0cm)
素材:ラミー、ナイロン、ポリウレタン、ポリエステル
本体価格:2,200円(税別)

インソール シダス「カスタムランライト」

本体価格:10,900円(税別)
※カスタム加工料金は別途、5,000~10,000円


3回に分けてさかいやスポーツ シューズ館 斎藤さんに教わったように、登山のスタイルや靴のタイプによって靴下やインソールをきちんと使い分けたほうが、快適でパフォーマンスも向上します。装備によるストレスなく山を楽しむために、足まわりを今一度、見直してみましょう。

 

プロフィール

斎藤 勇一(さかいやスポーツシューズ館)

アウトドア、ヤマの業界で25年超の経験を持つ長老的存在(笑)。
シューズ系の売り場に長く在籍し、さまざまな登山者の足元を見続けたせいで、その人の姿勢や歩き方から身体のクセなどを見抜くイヤらしいヤツ。
アウトドアスポーツ全般をこなすが、最近はイマドキ流行りの軽量装備で一人テント泊登山を楽しむ。

さかいやスポーツ

創業以来、約60年にわたり神田神保町で全国の登山家やアウトドアマンに愛されている登山用品店。ウェア、シューズ、ギアなど品目別の専門館を6店舗展開。ウェアや道具に詳しいスタッフが丁寧に解説してくれるので、ビギナーでも安心。

住所/東京都千代田区神田神保町2-48
TEL/03-3262-0432
営業時間/11:00~20:00
アクセス/神保町駅A4出口より徒歩6分、JR中央・総武線水道橋駅東口より徒歩8分

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