「防災グッズ」としての登山用品 1 -山ヤ流の備えを考える-

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登山者としての「災害への備え」を考える企画「防災グッズとしての登山用品 -山ヤ流の備えを考える-」。全4回に渡って災害時に役に立つ登山用品や、登山用品を防災時に役立てるための知恵を紹介する。1回目は「持ち歩ける防災グッズとしての登山用品」をテーマに、さかいやスポーツ 斎藤さんに聞いた。

取材/文=吉澤 英晃

シンプル・軽量な登山用品を常備し、いざという時に備える

ライターT:斎藤さんは普段から登山用品を防災グッズとして持ち歩いているそうですが、実際どんなアイテムをバッグにいれているのでしょうか?

斎藤さんのバッグの中身の一部。耳栓や目隠しが含まれているのは出張時にも使えるからだそう


斎藤さん:自宅から職場への移動時などに災害が起こった場合に備えて、安全な場所まで移動する時に役立つ道具を通勤用のバックパックに入れています。僕の通勤手段は自転車やランニングがメイン。常備している登山用の衣類は、保温着としてフード付き化繊インサレーションを圧縮できるスタッフバッグに収納。加えて、薄手の化繊インサレーション、ウインドブレーカー、替えのTシャツなどを持ち歩いています。

ライターT:普段から保温着とウインドブレーカーを使い分けているのですね。

  


斎藤さん:自転車用にグローブも2種類持っています。速乾性を重視した薄手のアクリル手袋と耐風性、保温性のある化繊綿入りのミトンです。他にも非常用の袋を兼ねた買い物バッグとしてパッカブル仕様の軽量ショルダーバックや、絆創膏などの救急用品、歯磨きセットやワセリン、化粧水なども持っています。

ライターT:これなら万が一、一晩明かすことになっても問題なく過ごせそう・・・。

斎藤さん:これに、モバイルルーターとモバイルバッテリーに充電用コードを。今回は持っていないのですが、小型のヘッドランプも持っていくようにしています。

ライターT:なるほど。斎藤さんは自転車やランで通勤するので、普段から登山用品を活用できると思うのですが、電車通勤の方の中にはいつもは登山用品を持ち歩かないという人もいると思います。また、防災用品というと私は備蓄するもの、というイメージが湧くのですが、具体的にどんなものを日頃から持ち歩いているといいのでしょうか?

斎藤さん:具体的に挙げると、「ライト」「手袋」「行動食」「ナイフ」「ウェア」です。これらのアイテムは、シンプルで最低限必要な機能を持っていることをポイントに選ぶといいでしょう。

 

 

登山の必携品「ヘッドランプ」は街でも役に立つ


斎藤さん:まず、ライトは登山の必需品であるヘッドランプがオススメです。ハンドライトでは片手がふさがってしまいますが、ヘッドランプなら両手を使うことができます。被災した後に自宅や避難場所へ向かうための移動で使うことだけを考えれば、光量は100〜150ルーメンもあれば十分です。以前は「ぺツル Eライト」のような電池式が主流でしたが、最近は「ぺツル ビンディ」など、USBケーブルから充電できる充電式モデルも増えてきました。充電式なら電池がない状況でも、モバイルバッテリーやPC、コンセントなどから充電することが可能です。

ライターT:最近のヘッドランプは軽量化が進んでいるので、これなら持ち運びが苦になりませんね。

製品紹介

ペツル「イーライト」

 

本体価格
3,600円(税別)
照射力
50 ルーメン
重量
26g 

 

ペツル「ビンディ」

 

本体価格
7,200円(税別)
照射力
200 ルーメン
重量
35g

 

 

薄手のグローブは災害時の手の保護に活用する


斎藤さん:次は手袋をご紹介します。防災グッズとしての「手袋」に求められる最低限必要な機能は、手を保護すること。災害時はガラスが飛散したり障害物があったりして、思わぬ場所で手をケガする可能性があるからです。なので、登山の際に求められる防水性や防風性といった機能はここでは気にしません。そこでオススメしたいのが、薄手のアンダーグローブ。季節を選ばず使うことができますし、手の平に滑り止めがあり、タッチパネル対応の手袋もあります。寒い時期には、アークテリクス「ベンタグローブ」のような保温性のある手袋を用意するのもアリです。最近は普段着にも合うデザインの登山用のグローブが増えてきたので、自分らしさを演出するファッションアイテムとして選ぶこともできますね。

製品紹介

アークテリクス「ベンタグローブ」

 

本体価格
9,000円(税別)
重量
50g

 

ライターT:手袋は、季節の変わり目などで急に気温が下がって、手が寒くなった時にも役立ちます。災害用に関わらず常備しておくと良いですね。続いては行動食について、教えてください!

 

行動食は運動機能の低下防止と軽量性を重視して


斎藤さん:行動食は空腹を満たすためというより、体の運動能力の低下を防ぐためのエネルギー摂取ということを念頭に置いて選びます。ということで、登山用品店で販売している行動食を1、2個持っているといいでしょう。行動食の種類はたくさんありますが、どれもだいたい100~150 kcal(お茶碗一杯分以上のごはん相当)のエネルギーを摂取することができます。そのなかでも、飲みやすいジェル状で、軽くて高カロリーでバランスよく栄養素が入っているパワーバー「パワージェル」がオススメです。

製品紹介

パワーバー「パワージェル」

 

本体価格
250円(税別)
エネルギー
120kcal
重量
41g

 

斎藤さん:しかし、味が独特なので苦手な方もいるかもしれません。そんな時は、「井村屋 スポーツようかん」などでもいいでしょう。美味しくて食べごたえもありますよ。登山用品店で販売されている行動食は、いずれも軽量コンパクトでありながら高カロリーなので、持ち運びが苦になりません。セロトーレ「Enemoti」のように、エネルギーの吸収が緩やかで、腹持ちの良さが特徴の商品もあります。

製品紹介

セロトーレ「Enemoti」

 

本体価格
270円(税別)
エネルギー
145kcal
重量
40g

 

ライターT:発汗量が多くなる夏は、塩や電解質が含まれる飴やタブレットを用意するのもいいですね。

 

ナイフは「切る」「割く」の機能に絞って軽いものを


斎藤さん:ナイフは小型ナイフに加えて「切る」や「割く」といったことがしやすいハサミが付いているビクトリノックス「クラシックSD」のような小さいモデルを選ぶといいでしょう。なかには、サバイバルで使うような「薪を割る」や「木を切る」などの機能が付いたゴクつくて大きなモデルもありますが、重たいですし、持ち歩いていると少し物騒ですよね。活躍する場面も意外とないかもしれません。ナイフは機能を絞って、軽くてコンパクトなものを選ぶといいでしょう。

製品紹介

ビクトリノックス「クラシック SD」

 

本体価格
1,680円(税別)
重量
21g

 

 

地図、コンパス機能を時計に分担させ、スマホのバッテリー節約に


斎藤さん:万が一、被災してしまって方角が分からなくなってしまった場合に備えて、コンパスと周辺の地図があると便利です。コンパスはアウトドア向けの時計のほとんどの製品に搭載されている機能ですし、最近ではガーミン「フェニックス5プラス」のようなGPSや地図表示機能が付いたアウトドア向けスマートウォッチも販売されています。これさえあれば、地図とコンパスを持ち歩く手間が省けます。また、スマートフォンで地図アプリを使うとバッテリーを消耗してしまいますが、地図・コンパスの機能を時計に分散させることで、スマートフォンのバッテリー消費を抑えることができます。

 

製品紹介

ガーミン「フェニックス5プラス」

 

本体価格
104,800円(税別)
重量
87g(ブラック)

 

 

ウェアは軽さだけでなく、必要な機能とのバランスを重視して


斎藤さん:ウェアは、保温着やレインウェアを用意するといいでしょう。保温着には、濡れても保温力が落ちにくい「パタゴニア マイクロパフフーディー」のような化繊綿を封入したものがオススメ。フードがあると首から上の保温もでき、なお良いです。レインウェアは軽さだけで選ばず、少々乱暴に扱っても問題ないくらいの耐久性があるものを選びましょう。「モンベル ストームクルーザージャケット」や「モンベル ストームクルーザーパンツ」などがオススメです。レインウェアは防風性もあるので、雨具としてだけでなく、ウインドブレーカーの代わりにもなります。

製品紹介

パタゴニア「メンズ・マイクロ・パフ・フーディ」

 

本体価格
37,000円(税別)
重量
264g

 

モンベル「ストームクルーザー ジャケット Men's」

 

本体価格
20,800円(税別)
重量
254g

 

パタゴニア「ストームクルーザー パンツ Men's」

 

本体価格
13,500円(税別)
重量
195g

 

 

通勤バッグは、いざという時に両手が使えるように備える

ライターT:では最後に、災害時でも持ち歩きに困らない、ビジネスでも使えそうなバックを紹介していただけますか。

斎藤さん:被災して自宅や避難場所まで徒歩で移動することになった場合、いつもより道路の状況が悪くなっていたり、障害物があったりすることも考えられます。そんな時のために両手が使えるようにしましょう。最近は手提げ型のブリーフケースでも、ハーネスが付属していて背負えるようになっているミステリーランチ 「3-ウェイ」のようなバックも販売されています。

製品紹介

ミステリーランチ 「3-ウェイ」

 

本体価格
21,000円(税別)
重量
1,200g

 

斎藤さん:最近はリュック型のビジネスバッグを持つサラリーマンの方も多く、アークテリクス 「ブレード28」など、アウトドアメーカーからリュック型のビジネスバッグがたくさん出ているので、自分の好みに合わせて選ぶといいでしょう。仕事柄、ブリーフケースを持たざるを得ない人は、コンパクトになるパッカブル仕様の軽量バックパックをカバンに忍ばせておくといいでしょう。オススメはキャラバン 「SILICコーデュラ・デイパック」などです。容量は20〜25Lくらいのデイパック程度の大きさがあれば十分です。

製品紹介

アークテリクス 「ブレード28」

 

本体価格
28,000円(税別)
重量
1,460g

 

キャラバン 「SILICコーデュラ・デイパック」

 

本体価格
4,800円(税別)
重量
75g

 

ライターT:…ところで登山の非常時のための定番アイテム「エマージェンシーシート」が入っていないのですが、これは必要ないのでしょうか?

斎藤さん:持ち運ぶ手間を感じなければ持ち歩いてもいいとは思いますが、使用が想定されるシーンが限られています。例えば、全く土地勘のない場所で被災して、その場で一晩過ごすという状況で使うことが考えられますが、それよりも普段の勤務先や自宅のほうが現実的かと思います。また、保温性が心配な場合も、保温着とレインウェアを使えば用意しておけばいいと思います。

ライターT:とても勉強になるお話、ありがとうございました! 次回は「非常用ザックに入れておくといい飲料水・食料対策」について、ご紹介していきます。

 

プロフィール

斎藤 勇一(さかいやスポーツシューズ館)

アウトドア、ヤマの業界で25年超の経験を持つ長老的存在(笑)。
シューズ系の売り場に長く在籍し、さまざまな登山者の足元を見続けたせいで、その人の姿勢や歩き方から身体のクセなどを見抜くイヤらしいヤツ。
アウトドアスポーツ全般をこなすが、最近はイマドキ流行りの軽量装備で一人テント泊登山を楽しむ。

さかいやスポーツ

創業以来、約60年にわたり神田神保町で全国の登山家やアウトドアマンに愛されている登山用品店。ウェア、シューズ、ギアなど品目別の専門館を6店舗展開。ウェアや道具に詳しいスタッフが丁寧に解説してくれるので、ビギナーでも安心。

住所/東京都千代田区神田神保町2-48
TEL/03-3262-0432
営業時間/11:00~20:00
アクセス/神保町駅A4出口より徒歩6分、JR中央・総武線水道橋駅東口より徒歩8分

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