「防災グッズ」としての登山用品 4 -長期の避難生活への備え-

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最終回は「長期の避難生活への備え」について。災害への備えを考え、「防災グッズ」の視点で登山用品を紹介する連載の4回目。前回に引き続き、さかいやスポーツ 斎藤さんに聞いた。

取材/文=吉澤 英晃

ベースはテント泊装備、避難所を想定してアレンジを

ライターY:1回目は、普段の生活で持ち歩ける防災グッズとしての登山用品についての記事を公開しました。2、3回目では、被災した時に職場から自宅に移動したり、自宅から避難場所に移動したりするための「非常用持ち出し袋」に入れておきたい登山用品を紹介していただきましたね。


ライターY:最終回では、長期の避難生活に備えたい防災グッズとしての登山用品について聞きたいと思います。大規模災害になれば、電気やガス、水道などのライフラインは止まってしまうかもしれませんし、もし自宅が被災した場合、長い期間、避難生活を余儀なくされる可能性もあります。そんな時に役立つ登山用品について教えてください。

備蓄品の目安(画像=首相官邸ホームページより)


斎藤さん:飲料や食品についての備蓄品は、様々なメディアで紹介されているのでそれを参考にしてもらうとして。登山者なら、避難生活の備えを考えた時に、まずテント泊装備を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

ライターY:たしかに、シュラフやマット、テントの装備は避難生活でも活躍してくれそうです。すでに持っている方なら、そのまま災害時に流用できるものもあると思います。新しく揃える場合に、選ぶ時のポイントを教えていただけますか? まずはテントから。

斎藤さん:避難場所が室内でプライベート空間を確保するだけが目的なら、ダブルウォールでもシングルウォールでもどちらでもいいと思います。室内ではペグダウンはできないので、自立するモデルを選ぶといいでしょう。

ライターY:なるべく快適に過ごせるようにしたいですが、限られた空間を分け合って使うので、必要最低限のもので使わない時は収納するなど、周りへの配慮も必要ですね。

備えにちょうどいいシュラフの温度域はどのくらい?

さかいやスポーツ エコープラザのシュラフ販売コーナー


斎藤さん:シュラフに封入されている中綿にはダウンと化繊綿という2種類があります。ダウンのほうが化繊綿にくらべて軽量で保温力があるものが多いため、登山ではダウンシュラフが人気です。化繊綿のシュラフはダウンに比べて価格が安い、濡れても保温力が落ちにくい、穴が空いても中綿が飛び出しにくい、といった特徴があります

NANGと共同開発した、さかいやスポーツのシュラフ「Nero Lite 0 」


ライターY:シュラフの温度域(使用する温度の目安)についてどうでしょうか?

斎藤さん:災害はいつ起きるか分かりませんので、どの季節でも対応できるようにする必要があります。都心で被災したと想定すると、最低使用温度が2~5℃のシュラフを用意し、寒い時期に起きてしまって寒いと感じた場合は、保温着を着込んで調整するといいでしょう。そういったことを踏まえると避難用に新たに購入するのであれば、安価な化繊シュラフが手頃でよさそうです。ただ、これはあくまで都心を想定しているため、寒い地域に住んでいらっしゃる方はスペックを高める必要があります。

ライターY:災害用にシュラフを新たに購入するなら、化繊の安いモデルを選べばよさそうですね。水や食料などの備蓄品とともに保管しておけばよさそうです。

エアーマットよりクローズドセルマットのほうが避難場所に適している理由

サーマレストの定番マット「Zライトソル」


ライターY: 次にマットについて伺います。種類は大きく分けて、ポリウレタン系の素材で作られるクローズドセルマットと、空気を入れて膨らませるエアーマットがありますね。

斎藤さん:就寝時の寝心地を左右する道具がマットです。個人的にはパンクの心配がないクローズドセルマットがオススメです。

ライターY:登山でも言えることですが、故障する可能性があるものはなるべく避けたいですね・・・。寝心地に関して違いはありますか?

斎藤さん:エアーマットは空気によって膨らむ(コンパクトに収納できる)こと、厚みが出せることが長所です。これは地面の凹凸を吸収してくれるので、山のテント場では寝心地が良くなります。しかし体育館などの避難場所でフラットな床で寝る場合、エアーマットはフカフカしすぎて落ち着かないということも。そんな時は、地面の近くで安定して眠ることができるクローズドセルマットのほうが、寝心地が良くなるでしょう。

ライターY:マットには床から伝わる寒さを遮断する役目もありますが、断熱性に差はありますか?

斎藤さん:クローズドセルマットのほうが断熱性は高い傾向にあります。ただ、エアーマットでも最近は内側に綿を張り付けたり、反射板を組み込んだりすることで断熱性を高めているモデルがあるため、一概にどちらがいいとは言えません。ただ、断熱性に優れるエアーマットは値段が高いので、手頃な価格のクローズドセルマットで十分でしょう。

ライターY:災害の備えも兼ねて登山用マットを買いたいという方は、クローズドセルマットを選ぶと良さそうですね。

軽量コンパクトな登山用の枕は、山でも避難生活でも活用できる

軽量コンパクトな枕、ニーモ「トゥオ フィッロ」


ライターY:快適な寝心地を求めると、枕も欲くなりますね。

斎藤さん:枕があると寝心地が格段に良くなります。最近は登山用に、軽量でコンパクトに収納できるアイテムが増えました。登山では一般的ではないかもしれませんが、私は、軽い荷物で長距離を歩くスルーハイクでも必ず持参するようにしていますよ。

ライターY:たしかに、収納サイズを見ると手の平に収まるものが多いです。とても軽いし、これなら山に持って行くのも苦にならなそうです。

斎藤さん:登山用の枕のなかには、枕カバーが付いているモデルもあります。汗や皮脂で汚れても枕カバーだけ洗濯すれば綺麗になるので、清潔さを気にする方にもオススメできます。枕を汚さない方法としては、ネックチューブを枕に被せて使うとか、頭に薄手のビーニーをかぶるといった方法もあります。

7日間分の登山用の簡易トイレがあれば避難生活でも安心

ハイマウント「簡易トイレ」


ライターY:最後にトイレについて聞きたいと思います。断水が起これば、トイレも使用できなくなります。そんな時に登山向きの簡易トイレは役に立ちそうですが・・・。

斎藤さん:そうですね。簡易トレイには吸水ポリマーと、汚物が見えないように色がついた防臭袋、さらに防臭袋を入れるためのビニール袋がついています。大規模災害の発生時には「1週間分」の備蓄が望ましいとされていますので、個人差はありますが、1日2回使用するとすれば、最低でも1人14枚は必要になります。

ライターY:あらためて聞くと、けっこうな枚数の簡易トイレが必要なのですね。せっかくなので山登りでも使おうと思うのですが・・・そもそも登山では簡易トイレを用意したほうがいいのでしょうか?

斎藤さん:みなさん、山では基本的に山小屋に設置されているトイレを利用していると思います。しかし、ルート上に山小屋がない場合もあるし、トイレに行きたい時に近くに山小屋があるとは限りません。ですので、普段から簡易トイレを持ち歩くといいですね。

ライターY:そうですよね・・・山でも簡易トイレを忘れずに!

斎藤さん:最近は人気の高い山に登山客が集中する傾向が強いので、人気の山域では簡易トイレの持参が必須になる日が来るかもしれません。山で使うために買った簡易トイレを備蓄品にも使うといいでしょう。

4回にわたり災害時に使える山道具の使い方、選び方を教えていただきました。今回学んだことを参考にして、登山道具を災害時にも活用できるように備えようと思います。

プロフィール

斎藤 勇一(さかいやスポーツシューズ館)

アウトドア、ヤマの業界で25年超の経験を持つ長老的存在(笑)。
シューズ系の売り場に長く在籍し、さまざまな登山者の足元を見続けたせいで、その人の姿勢や歩き方から身体のクセなどを見抜くイヤらしいヤツ。
アウトドアスポーツ全般をこなすが、最近はイマドキ流行りの軽量装備で一人テント泊登山を楽しむ。

さかいやスポーツ

創業以来、約60年にわたり神田神保町で全国の登山家やアウトドアマンに愛されている登山用品店。ウェア、シューズ、ギアなど品目別の専門館を6店舗展開。ウェアや道具に詳しいスタッフが丁寧に解説してくれるので、ビギナーでも安心。

住所/東京都千代田区神田神保町2-48
TEL/03-3262-0432
営業時間/11:00~20:00
アクセス/神保町駅A4出口より徒歩6分、JR中央・総武線水道橋駅東口より徒歩8分

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