「防災グッズ」としての登山用品 3 -ウェア・シューズ・避難用品-

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災害への備えを考え、「防災グッズ」の視点で登山用品を紹介する連載の3回目。今回は「シューズ・ウェア・避難用品」について。前回に引き続き、さかいやスポーツ 斎藤さんに聞いた。

取材/文=吉澤 英晃

 

 

 

ガラス散乱に地番沈下・・・災害時の備えはトレッキングシューズから

ライターY:前回の「非常時の食料・水対策」に続き、今回は「ウェア・シューズ・避難用品」について聞きたいと思います。まず、災害への備えを考えたとき、登山者なら悪路を歩くためのトレッキングシューズや登山靴が思い浮かぶのではないかと思います。

斎藤さん:そうですね。災害時には様々な路面状況が想定できます。地震が起きた場合は、液状化現象による地盤沈下や地面の隆起による道の崩壊、窓ガラスの破損によるガラスの散乱など・・・。それらに対応するためには、防水性と厚みのある丈夫なソールを備えているシューズが必要でしょう。

そこで登山者にはおなじみの靴の出番だ


斎藤さん:トレッキングシューズは防水性を備えているものが多いですし、もともと舗装されていない道を歩くために作られている靴なので、ソールの厚みや耐久性は十分あります。災害時の悪路にも対応できる靴であることは間違いありません。

ライターY:トレッキングシューズといってもいろいろな種類がありますが、斎藤さんのオススメ商品はありますか?

斎藤さん:歩きやすさを考慮すると、軽いトレッキングシューズがいいでしょう。ローカットモデルならサロモン「XA PRO 3D GTX」など、ミッドカットモデルならメレル「カメレオンストームMID GTX」、アルトラ「ローンピーク4ミッド RSM」といった商品がオススメです。

製品紹介

サロモン「XA PRO 3D GTX」(写真左)

 

本体価格
17,000円(税別)
重量
390g(片足)

 

メレル「カメレオンストームMID GTX」(写真中央)

 

本体価格
17,800円(税別)
重量
448g(片足)

 

アルトラ「ローンピーク4ミッド RSM」(写真右)

 

本体価格
23,000円(税別)
重量
384g(片足)

 


斎藤さん:もう少しオフィスカジュアルに合わせたデザインにしたいのであれば、本革の中山製靴「チロリアンハード」はどうでしょうか。防水性はないですが、防水スプレーなどでコーティングすることはできます。または、ゴアテックスを使用しているアークテリクス「コンシールFL GTX」も比較的ビジネスシーンでも使いやすいデザインです。

製品紹介

アークテリクス「コンシールFL GTX」(写真左)

 

本体価格
22,000円(税別)
重量
350g(片足)

 

中山製靴「チロリアンハード」(写真右)

 

本体価格
35,000円(税別)
重量
650g(片足)

 


ライターY:たしかに、落ち着いたデザインなので、これならビジネスシーンでも履きやすそうですね。ただ、トレッキングシューズって値段が高いものが多いですよね・・・。安いスニーカーじゃダメですか?

斎藤さん:防水性がないのはまだいいとしても、靴底が薄いスニーカーは避けたほうがいいと思います。長時間の歩行に向いていませんし、路面に散らばったガラス片などで足をケガするリスクが上がります。しかし、どうしてもスニーカーを履きたい方もいるでしょうし、普段ハイヒールを履いている方もいるでしょう。そういう人は、履き古したトレッキングシューズを「非常用持ち出し袋」に入れておくといいでしょう。ただし、製品の経年劣化などには十分注意が必要です。収納する前に状態を確認すること。

 

登山用ウェアの機能性は災害時にも役に立つ。着なくなったものを非常用持ち出し袋に

ライターY:さて、次は登山用ウェアについて聞きたいと思います。どのような機能が災害時に役立つでしょうか?

斎藤さん:登山用のウェアは、速乾性や防臭性、保温性、ストレッチ性など、高い機能をもったものがほとんどです。これらの機能は、災害時にも間違いなく役立ちます。長く登山を趣味にしている方なら、着なくなった登山ウェアを持っていらっしゃるのではないでしょうか。それらを処分せず、非常用持ち出し袋に入れておくといいでしょう。

ライターY:たしかに、たんすの肥やしになっている登山ウェアを使い回せば経済的ですね。しかし、全ての登山者が登山ウェアを持て余しているとは限りません。最低限これはあると便利! というものがあれば教えてください。

斎藤さん:登山用アンダーウェア、レインウェア、保温着の3アイテムです。

ライターY:たしかに高機能の登山用アンダーウェアは、普段の生活でも活躍するアイテムですね。

斎藤さん:アンダーウェアは、メリノウール系と化学繊維系という、大きく分けて2つの素材の製品に分けられます。それぞれの特徴を知った上で、自分に合ったものを使うといいでしょう。

過去の関連記事:登山用アンダーウェアの選び方 1 -その重要性と化繊のメリット-
https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=622

過去の関連記事:登山用アンダーウェアの選び方 2 -メリノウール-
https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=629

 

ライターY:優れた速乾性をうたったアンダーウェアは、ファストファッションなどの量販店でも低価格で販売されていますよね。登山用アンダーウェアとの違いはあるのでしょうか?

斎藤さん:価格が安い量販店の商品は肌触りや着心地を良くても、耐久性や保温性といった機能が低くなりがちです。厳しい環境下での使用を想定した登山用アンダーウェアのほうが、製品としての信頼性は高いと言えるでしょう。

ライターY:登山用のアンダーウェアは一般的なアンダーウェアよりも高価ですが、耐久性や機能を考えると普段の生活から登山や災害時にも役立つので、持っておきたいアイテムです。レインウェア、保温着についてはどうですか?

斎藤さん:基本的な選び方は、登山で使う時とあまり変わりません。強いて言うなら、レインウェアはトレイルランニング用といった薄手で軽量のものよりも、多少乱暴な扱いにも耐えられる丈夫なモデルを選ぶといいでしょう。保温着は水に濡れても保温性が低下しにくい化繊綿のモデルがオススメ。フード付きのものであれば、首から上も保温できて、なおいいでしょう。

 

畳める登山用ヘルメットを非常用持ち出し袋にコンパクトに収納

ライターY:では最後は避難用品について。一時避難する際に活用できそうな登山用品はいろいろありますが、今回は、その中からヘルメットとランタンについて聞きたいと思います。

斎藤さん:では、まずヘルメットから。防災用として登山用のヘルメットを使うことを考えると、エーデルワイス「マディーロ」がオススメです。

エーデルワイス「マディーロ」


斎藤さん:これは、登山用としては珍しく折り畳むことができるモデルで、コンパクトに持ち運ぶことができるためバックパックや非常用持ち出し袋に入れたり、持ち運んだりする時もかさばりません。

製品紹介

エーデルリッド「マディーロ」

 

本体価格
12,800円(税別)
重量
390g

 


ライターY:すごい! こんなに小さくなる登山用ヘルメットがあるのですね。

斎藤さん:防災用ヘルメットにも畳めるモデルはありますが、登山やクライミングでも使えて、畳めるヘルメットはマディーロだけだと思います。

 

ランタンはソーラー充電で使い続けられるモデルを

斎藤さん:次はランタンについてご紹介します。ランタンの機能だけを持った商品では、キャリーサン「クールブライト スモール」がオススメです。これはソーラーパネルを使って充電できるので乾電池を用意する必要がありません。災害時に乾電池が手に入りにくい状況になったとしても使い続けることができます。

製品紹介

キャリーサン「クールブライト スモール」

 

本体価格
2,600円(税別)
重量
57g
明るさ
15~30ルーメン

 


斎藤さん:ランタンにプラスアルファの機能があるものを選ぶとすれば、ブラックダイヤモンド「アポロ」といった充電式ランタンがあると便利でしょう。このアイテムは本体の充電用ソケットの他に、蓄えた電気をスマートフォンといった小型電子機器に送ることができるUSBソケットを備えています。災害に関する情報収集やコンパス、地図、GPS機能など、スマートフォンを普段以上に使う可能性が高いので、バッテリーとしても使えるのは頼もしいです。

製品紹介

ブラックダイヤモンド「アポロ」

 

本体価格
7,100円(税別)
重量
350g
明るさ
225ルーメン

 


ライターY:アポロでスマートフォンをどのくらい充電できるのでしょうか?

斎藤さん:アポロは、2,600mAh(ミリアンペアアワー)のバッテリー容量があり、それをランタンと給電に振り分けることができます。ランタンのみの使用で電池寿命は90時間(低照度の場合)。ランタンで電池の30〜40%使うとして、残りを他の電子機器の充電に使うとしましょう。

ライターY:はい。

斎藤さん:スマートフォンのバッテリー容量は機種によって異なりますが、平均すると2,400mAhほど。そうすると、そのうちの65〜75%にあたる1,560〜1,820mAhぐらい充電することができる計算になります。

ライターY:なるほど、モバイルバッテリーとは別に、こういったバッテリーにもなるアイテムを持っていれば、より安心ですね。さて、次回、最終回。「テント泊装備で長期の避難生活に備える」というテーマでお送りしようと思います! 斎藤さん、今回もありがとうございました。

プロフィール

斎藤 勇一(さかいやスポーツシューズ館)

アウトドア、ヤマの業界で25年超の経験を持つ長老的存在(笑)。
シューズ系の売り場に長く在籍し、さまざまな登山者の足元を見続けたせいで、その人の姿勢や歩き方から身体のクセなどを見抜くイヤらしいヤツ。
アウトドアスポーツ全般をこなすが、最近はイマドキ流行りの軽量装備で一人テント泊登山を楽しむ。

さかいやスポーツ

創業以来、約60年にわたり神田神保町で全国の登山家やアウトドアマンに愛されている登山用品店。ウェア、シューズ、ギアなど品目別の専門館を6店舗展開。ウェアや道具に詳しいスタッフが丁寧に解説してくれるので、ビギナーでも安心。

住所/東京都千代田区神田神保町2-48
TEL/03-3262-0432
営業時間/11:00~20:00
アクセス/神保町駅A4出口より徒歩6分、JR中央・総武線水道橋駅東口より徒歩8分

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