季節は一気に冬へ。ついに北アルプスの三百名山を踏破! 田中陽希さん 旅先インタビュー第9弾

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「日本3百名山ひと筆書き」チャレンジで9月下旬に北アルプスに入った田中陽希さんは、10月17日に笠ヶ岳を登り、新穂高温泉に下山。後半は、穂高岳から槍ヶ岳、常念山脈の山々を歩く予定だが、降雪が迫っていた――。約40日に渡った北アルプスの三百名山を巡る旅、後編を紹介する。

POINT
  • 新穂高温泉で行程を練り直す。この季節、このコンディションで、どこをどう歩くか――
  • 4年越しの念願で、東鎌尾根を縦走。有明山へは険しい「表参道」から登る 
  • 雪に閉ざされるギリギリのところで、乗鞍岳を登頂し、北アルプスの山旅を完了!

 

笠ヶ岳を登り終え、いったん下山するも、降雪の知らせに後半の計画を練り直す

笠ヶ岳は百名山以来でしたが、今回は天気が悪く、楽しみにしていた抜戸岳からの笠ヶ岳の景色は見られませんでした。曇天のために、冬毛に変わりかけのライチョウに出会えたのはよかったのですが、笠ヶ岳山頂でも晴れることなく、新穂高温泉へ下山しました。山から下りたのは、後立山連峰に入って以来、2週間ぶりでした。

新穂高で一日休養日を取ったものの、北アルプスは降雪の季節が迫っていて、穂高・槍の稜線が降雪したと聞き、今後の行程を練り直す一日になりました。

 

笠ヶ岳を登り終え数週間ぶりに下山。久しぶりに風呂に浸かった

当初の計画では、焼岳から稜線伝いに西穂、さらに奥穂までを縦走したかったのですが、西穂・奥穂の縦走は諦め、焼岳を登ったら上高地に下山することに決めました。

焼岳は、久しぶりに麓から一つのピークに登っていく感覚が楽しかったです。活火山らしい硫黄臭や噴気孔の躍動感も感じることができ、上高地へ下りました。

躍動感にあふれていた焼岳

 

岳沢経由での奥穂高岳も断念し、安全優先で進む。いったん下って、槍ヶ岳に登り返した

上高地に着いた後も、まだ、岳沢経由で奥穂高岳に登りたいと考えていました。しかし、このルートをこの季節に登った経験がないため、考えて考えて、回避しました。槍穂高の山域をこの季節に歩くのは初めてでしたし、北アルプスのシーズンも終盤だと感じていましたので、安全で確実に登れる涸沢経由での奥穂高岳登頂に切り替えました。初めて本格的な降雪となったこの日、穂高岳山荘まで移動し、翌日、快晴の中、奥穂高岳、涸沢岳に登頂しました。

穂高岳山荘前で。10月20日、今シーズン初めての本格的な降雪になる

槍ヶ岳へも大キレットを越えて、という当初の計画でしたが、この季節になったので、横尾に下山してからの槍沢経由に変更しました。ただ、槍沢を詰めるだけではもったいなかったので、天狗池の逆さ槍がきれいだろう、と天狗池経由で稜線へ出ました。

槍ヶ岳へも槍沢経由で。天狗池から稜線に出るルートをとった

3000mの稜線で、徐々に近づいてくる槍ヶ岳を、正面に見ながら歩く、というのが新鮮でした。

槍ヶ岳からは東鎌尾根を歩き、大天井岳へ。このルートは百名山のときにも計画したものの歩くことができなかったので、4年越しで歩くことができました。さらに、以前から泊まってみたいと思っていた燕山荘にも泊まることができ、これもよい機会になりました。

東鎌尾根を進む。100座目となった大天井岳。だが、今回の旅では全行程の1/3だ

 

燕岳、餓鬼岳を登り、信仰の山・有明山には「表参道」から

燕岳、餓鬼岳に登頂して、山麓の中房温泉に下山しました。次の有明山は2回目でした。前回は中房温泉からの「裏参道」を登りましたが、地元の方に「次回は表参道から登ってください」と言われてました。

僕自身も「霊山はできる限り表参道から」と考えていたので、中房温泉から距離約10km、標高差にして700mほど下がった表参道登山口に移動してから登りました。

事前に役場の人に確認はしていたものの、最近はあまり使われていない登山道のようで、けっこうハードな「これが表参道?」という険しい登山道に苦労しました。

「霊山に登るときは正面から」だが、有明山の表参道はけっこうハードだ

 

再び登り返し、槍・穂高連峰を見ながら、常念山脈を縦走

中房温泉に下山してから再び燕山荘へ登り返し、大天井岳から常念岳、蝶ヶ岳へ常念山脈を進みました。槍・穂高連峰を間近に臨む、稜線歩きでした。前回、二百名山のチャレンジのときは、北上しましたが、今回は南向きに歩きました。数日前にも歩いた稜線でしたが、さらに気温が下がっていて、霧氷がきれいに付いていました。

数日で姿を変えた槍・穂高連峰を見ながら常念山脈を進む

 

降雪により上高地で停滞。その後、霞沢岳に登り、北アルプス最後の一座へ

蝶ヶ岳から徳沢に下山し、上高地へ戻ると、今度は、標高1500mの上高地にも雪が舞いました。上高地で数日間停滞したこの時、立山では30cmの積雪があったようです。

降雪で誰もいない上高地でひとり佇む

穂高の稜線も15cmの積雪。北アルプスの三百名山、残り2座にして、冬が眼の前に来ていました。 天候を待って11月1日に霞沢岳に登頂。雪化粧した穂高連峰の姿が目の前に見えました。

11月1日、霧氷の中、霞沢岳へ向かう

 

極寒の乗鞍岳山頂。北アルプスの三百名山を登り終えた

北アルプス最後の山は乗鞍岳でした。上高地から白骨温泉を経由して乗鞍高原に泊まり、翌日、乗鞍高原から続く登山道をたどり、乗鞍岳を目指しました。

予報ではあと2日は安定しているとのことだったのですが、北アルプスの山の天気はそう甘くなく、標高2400m付近から上は、西風で常に雲に覆われていました。

4年前、雲が湧いたと思ったら土砂降りに見舞われた、という記憶があって、乗鞍岳の全容を楽しみたかったのですが、山頂手前で1時間待ったものの天気が回復しないまま、11月3日11時に乗鞍岳・剣ヶ峰に立ち、北アルプスの三百名山が終了しました。

11月3日11時、乗鞍岳・剣ヶ峰。北アルプスの三百名山を登り終えた瞬間だ

北アルプスは9月23日の鍬崎山から入って、乗鞍岳まで約40日。この間、季節は秋から冬へと変わっていきました。

台風や降雪の停滞があり、すごく不安定な中で、常に先々の行程を心配しながら、不安を感じながら進んできました。雪ではなく、風であっても、身に応えるような寒さを感じるのが、この季節の北アルプスで、体力の消耗も激しく、緊張しながら登山をする毎日でした。

そんな中で、「雪で完全に閉ざされてしまう前に無事に最後まで歩き通せた。乗鞍岳が終わって、ようやくホッとした」というのが本音です。

また、前回、前々回と合わせると、北アルプスのほとんどの登山道を歩きつなぐことができ、ぜいたくな体験ができた、とも考えています。

 

北アルプスの間、ヒゲを剃らずに過ごした理由・・・

最初に言っておくと、自分のヒゲ姿は好きじゃないんです。似合わないなぁ、と。それに、大勢の方に出会って応援していただいて、を繰り返す立場の自分にとっては、ヒゲ姿はふさわしくない、とも思っています。

ただ、今回、北アルプスの40日間は、ヒゲを剃らずに過ごしました。

というのも、剱岳を終えて馬場島に下山し、天候が悪く3日ほど停滞したのですが、そこで、「後立山で雪に阻まれてどうにも進めない」というような悪い夢を見まして。(NHKの撮影で同行している)平出和也さんとか、登山家の方って、遠征に出て目標の山を登って無事に登って帰ってくるまで髭を剃らない、願掛けというか、ゲン担ぎをするようなんです。

自分は登山家ではないですけど、気づいたらなんとなく伸ばしていて、「雪が降るまえに北アルプスを登りきれたら」ということで、約40日、ヒゲを剃らずに過ごしました。人生でこんなにヒゲを剃らなかったのは初めてでした。

剣岳と燕岳の記念写真でヒゲの違いを確認。ヒゲを伸ばすのは珍しいという

 

*****

 

北アルプスを登り終えた田中陽希さんは、岐阜県高山市に拠点を置くガイドの方らの協力で、乗鞍岳から下山した翌日に旅先交流会を行った。その後、(ヒゲを剃ってから)、冬シーズンを前にした岐阜県の山を登り、関東へ向かっていった。

高山市で行われた旅先交流会には、直前の告知にも関わらず170人ものファンが集まった

 

取材日:2018年11月8日
写真提供:グレートトラバース事務局

 

人力10,000kmの山旅。日本3百名山ひと筆書きに挑戦中の田中陽希さんを応援しよう! もっと知りたいという方は、ウェブサイトで。
北アルプスは山も多く、ここに掲載できたエピソードは、ほんの一部。詳しくは公式サイトの「日記」でチェックしよう! 
グレートトラバース3 公式ウェブサイト

 

今回のレポートで登った山のまとめ

笠ヶ岳 [10月17日]

焼岳 [10月19日]

奥穂高岳涸沢岳 [10月21日]

槍ヶ岳 [10月22日]

大天井岳(100座目) [10月23日]

燕岳餓鬼岳 [10月25日]

有明山 [10月26日]

常念岳 [10月28日]

霞沢岳 [11月1日]

乗鞍岳 [11月3日]

プロフィール

田中 陽希

1983年、埼玉県生まれ、北海道育ち。学生時代はクロスカントリースキー競技に取り組み、「全日本学生スキー選手権」などで入賞。2007年よりチームイーストウインドに所属する。陸上と海上を人力のみで進む「日本百名山ひと筆書き」「日本2百名山ひと筆書き」を達成。
2018年1月1日から「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦し、2021年8月に成し遂げた。

https://www.greattraverse.com/

田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き」旅先インタビュー

2018年1月1日から、日本三百名山を歩き通す人力旅「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦中、田中陽希さんを応援するコーナー。 旅先の田中陽希さんのインタビューと各地の名山を紹介!!

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