三百名山に登りながら、九州を東へ西へ。田中陽希さん「グレートトラバース3」旅先インタビュー第2弾

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現在、九州を東へ、西へ移動しながら、山を登り、峠を越えて、人力移動中のプロアドベンチャーレーサー・田中陽希さん。宮崎、大分、熊本を行き来して、長崎県にはカヤックで上陸。3月8日にお話を伺いました。

POINT
  • 季節は冬から少しずつ春へ
  • 九州で「最難関」となる3日連続登山と、一日2座登頂
  • 九州で初めて。山旅中の交流会が実現!

――(編集部)3月に入りました。九州の旅も後半戦になりましたね

最近は「三寒四温」で春に移り変わっていくように感じています。国見岳、祖母山、九重連山など、2月は雪の山を歩くことがありました。でも、山から下ると、里では梅が咲いていて。阿蘇山では雪はなく、ここから先は、しばらく雪の山もないと予想しています。

 

―― 山の文化、人との関わりなど、山旅全体を全身で満喫していますね

神話の世界に入ったような天岩戸神社

例えば、高千穂は今回で3回目の訪問だったのですが、初めて高千穂峡でボートを漕ぎました。夜神楽も見る機会に恵まれました。33編で構成されるもののうち、4編の短縮バージョンでしたが、この夜神楽を見たことで興味が広がり、翌日は、天岩戸神社にも立ち寄ることにしました。神楽で表現されていた場所に、実際に自分が立つことになり、神話の世界に入ったようでした。

 

―― 大崩山・傾山・祖母山を3日連続登山で縦走しました

以前から、傾山から祖母山にかけての縦走は素晴らしいから、と聞いていたのですが、今回は、大崩山を加えて連続する登山を計画しました。町から離れているので、3日間は補給できないと計算し、さらに、雪の状況も考えたら、装備が20kgにもなってしまいました。九州では最難関の行程でした。

九州の山好きな人たちが、九州一の山、好きな山に挙げる大崩山

 

大崩山へは西からのルートで考えていたのですが、地元の方から東側の湧塚ルートを薦められたので、いったん町に下りてから再アプローチしました。大崩山から五葉岳に縦走し、13時間かけて傾山の麓に下山しました。大崩山にふさわしい登山ができたと思います。

傾山は、北側から見ると傾いて見えるからというのが山名の由来ですが、今回は大崩山を超えて南からアプローチしたので、そのような姿は見えません。ただ、大崩山の方から見たときは、傾山、祖母山と「緩やかにつながっているかな」と思ったんです。そして、西側の九折越(つづらごし)から、実際に近づいていくと「どこから登ったらいいの」というくらい、想像をはるかに超える切れ落ちた垂壁の絶景でした。

大崩山から、傾山、祖母山へと、3日連続登山で縦走した

 

―― 日本有数の温泉地、初めての別府では共同浴場を満喫

別府は初めて訪れました。共同浴場が70以上あって、100円とか200円とかで入れます。地元の方々が桶と手形を持って共同浴場を利用していて、区域の共同管理の浴場には、外部の人は入れない浴場もあるなど、温泉地としての歴史と文化を感じました。10箇所は入ろうと決めてたんですが、お湯が熱くて…。結局、5箇所しか入れませんでした。

 

―― 海抜0mから、標高1,375mの鶴見岳「一気登山」

別府の町の背後に構える鶴見岳は「一気登山*」で有名です。別府の人たちに愛され、町を上げて、長い時間をかけて「一気登山」に取り組んできたようです。コースの標識も細かく作られていました。 温泉が自然の恵みなのと同様に、鶴見岳はシンボルであり、町の財産。それを大切に、上手に活かしているなと感じました。

*海抜0mから川沿いの道を遡り、途中、幹線道路を通らず、信号にも止められることなく山頂まで歩くことができ「日本で唯一の登山ができる」という。毎年4月には、一気登山のイベントも行われ、大勢の参加者が集まる。

 

―― その鶴見岳の一気登山から、さらに由布岳へ縦走。一日2座登頂になりました

計画の時から、この2つはよい距離感だったので、一気に行きたいと考えていて、今回の旅で初めての一日2座登頂になりました。由布岳も大きな山なので、一日の獲得標高が2000mを超えるハードな一日になりましたが、歩き切ることができました。

鶴見岳からの縦走で、今回の旅で初めての一日2座登頂となった

 

300山のうち、まだ20座も登っていないので、まだまだ序盤戦。山歩きの力はこれからもっと上げていけると思います。

 

―― 九重でもいくつものピークに立ちました ――

以前に立ち寄り湯だけで利用し、一度は泊まってみたかった法華院温泉山荘さんに泊まりました。 九重は九州でも登山者によく登られる山で、アプローチがよいので雪のシーズンでも登られる方が多いという印象でした。火山地形の恩恵で、樹木が育たないために、いくつもピークがいい距離感であって、ピークからも鞍部からも、歩いてきた道とこれから歩く道が見えて、ひとつピークに立つと、次のピークが近づいてきて。ランチはどこで食べようか、あっちからはどんな景色が見えるのかって、ついまた次に行きたくなる…。ルートもたくさんあって、体調、天候で選択できて、それが九重の魅力なんじゃないかと感じました。

一日の最後に、時間がないなかで、星生山というピークに行こうか行くまいか迷いながら向かったのですが、その途中で見たのが、アルプスのような雪の張り付いた岩の稜線の絶景です。九重の違う一面を見ることができました。

 

―― 規制解除された阿蘇山にも登りました

4年ぶりの阿蘇山は快晴。しかも登山ができたのはこの日だけだった

長らく登山規制されていた阿蘇山が、僕の山旅に合わせたかのように、2月28日に規制解除になりました。
3月1日はゲートまで行き、6時間待ちましたが、この日は天候が悪いためゲートは閉じられたまま。翌3月2日に別ルートから再チャレンジしました。天気が回復し、快晴の中、4年ぶりに阿蘇山に立つことができました。
しかし、この時すでに火山性微動が再発生していたようで、翌3月3日には警戒レベルが上がり登山規制に。登れたのはこの3月2日だけになりました。自然には抗えませんから、運が良かったです。

 

―― 今回の旅で初。熊本市内で交流会が開催されましたね

熊本市内で行われた交流会には200人以上が集まった

百名山チャレンジのあと、講演会でお世話になったこともある登山専門店「シェルパ」さんのご協力で、今回の山旅中で初めての交流会が実現しました。もちろん熊本市内の交流会会場までも徒歩で移動します。
阿蘇山で日を要し、予定より一日遅れての開催になりましたが、200人を超える方が集まってくださって。 九州で交流会が実現したのは初めて。みなさんから熱いパワーをいただきました。
今回のチャレンジでは、自分の位置情報公開をしてないので、山で会うことは少ないと考えているので、こういう交流会が何度かできるといいなと思っています。

 

* * *

 

熊本市での交流会のあと、カヤックで長崎へ渡った陽希さん。九州の山旅は、長崎から、佐賀、福岡へと続きます。田中陽希さんのチャレンジを一緒に応援しましょう!

アドベンチャーレーサーの真骨頂。熊本から長崎へはカヤックで
取材日:2018年3月8日
写真提供:グレートトラバース事務局

 

関連リンク

人力10,000kmの山旅。日本3百名山ひと筆書きに挑戦中の田中陽希さんを応援しよう!
もっと知りたいという方は、ウェブサイトで。
グレートトラバース事務局ウェブサイト
http://www.greattraverse.com/

■関連書籍

出発前、百名山に対する思いを語った田中陽希さんのインタビューが、弊社刊『ワンダーフォーゲル』2018年4月号に掲載されました! 特集は「日本百名山プランニングブック」。一生使える日本百名山の決定版コースガイドを掲載。
ぜひ手にとってみてください。

⇒ワンダーフォーゲル 2018年4月号を見る

 

まとめ (山名は「ヤマケイオンライン」の山の紹介ページへのリンクします)

 

国見岳 [2018年2月8日(木)]

大崩山 [2月16日(金) ※2泊3日でつなげて]

傾山 [2月17日(土) ※2泊3日でつなげて]

祖母山 [2月18日(日) ※2泊3日でつなげて]

鶴見岳 [2月22日(木) ※一日2座]

由布岳 [2月22日(木) ※一日2座]

九重山(大船山中岳久住山ほか) [2月24日(土) ※一日2座]

涌蓋山 [2月26日(月)]

阿蘇山 [2月26日(月)]

 

記事一覧

田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き」旅先インタビュー

 

プロフィール

田中 陽希

1983年、埼玉県生まれ、北海道育ち。学生時代はクロスカントリースキー競技に取り組み、「全日本学生スキー選手権」などで入賞。2007年よりチームイーストウインドに所属する。陸上と海上を人力のみで進む「日本百名山ひと筆書き」「日本2百名山ひと筆書き」を達成。
2018年1月1日から「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦し、2021年8月に成し遂げた。

https://www.greattraverse.com/

田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き」旅先インタビュー

2018年1月1日から、日本三百名山を歩き通す人力旅「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦中、田中陽希さんを応援するコーナー。 旅先の田中陽希さんのインタビューと各地の名山を紹介!!

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