家族で100名山踏破Vol.3 子供の成長と家族の絆を高めた5年間の百+αの旅

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

約5年間で達成した「家族全員で百名山踏破」の旅で得たもの、それは百以上の思い出と、家族の絆と子供たちと家族の成長だった――。山だからこそ起こる様々な事態に、unchikutareoさん一家いかにして立ち向かったのか? 登山プランから達成の瞬間の様子、そして思い出話までを、インタビューから振り返る。

 

残すはあと3座! いよいよ最後の百名山、南アルプス・北岳へ

2013年(息子幼稚園/娘小2)に2座から始まった家族全員百名山制覇の目標は、2014年22座、2015年30座、2016年25座、2017年17座というハイペースで進み、2018年には残すはあと3座となっていた。

★前回記事:家族で百名山・現実的な難題をいかにして乗り越えたのか?

「子供が部活などを始めれば、家族全員というのは難しくなるだろうし、そうそう親についてこなくなるだろうと予想して、娘が小学生のうちにやれるだけやろうと思い計画し、ほぼ予定通り進みました。3座のみ娘が中学生になってしまいましたが・・・」

ここまで順調に進んだ理由に、本気になってからの綿密な計画が大きかったと分析する。難易度の低い山から登り始め、子供と親の登山経験値と成長に合わせてレベルを上げていく計画は着実に目標を突破する力となった。そして強調するのが、目標とする山と、その予行演習登山の組み合わせた緻密な登山計画だ。

「その年の目標とする山(宮之浦岳、奥穂高岳、槍ヶ岳など)に合わせて、その前に登る山を選定していました。例えば、宮之浦岳の前には一日に10時間歩けるように甲武信ヶ岳を日帰りしたり、奥穂高の前には八ヶ岳の硫黄岳~赤岳まで日帰り縦走したり、本番をイメージして予行演習を計画・実行しました」

奥穂高岳の予行演習のために八ヶ岳(37座目)の岩稜縦走を経験する計画にした ⇒登山記録はこちら


ほかにも登山計画はさまざま苦心したが、もうひとつ大きな後押しとなったのは、前回でも述べたが、目標を達成するために計画した「遠征」の数々だった。東京から遠方の山は、長い休みを利用して一挙に制覇することを目指した。

「九州、四国、北海道などの遠方の山は『遠征』として1年以上前から計画してました。九州、北海道は一気に完登するのは難しいので九州は3回、北海道は2回に分割しました。北海道は二年連続で私の夏休みを全部突っ込む結果となってしまいました」

遠方の北海道・九州・四国の山は「遠征」でまとめて制覇した(48座目・石鎚山) ⇒登山記録はこちら


また、達成を前進させるアドバンテージとなったことに、天気によって柔軟に計画を変更していったことも説明する。計画は「基本は行ける山の中で一番天気の良い地域を選び、天気がどこも良い予報ならば、東北や北陸などの遠隔地やアルプス系の難易度の高めな山に行くように心掛けてました」と、天候を中心に立案。そして、最初のうちは辛かった車の運転もすっかり慣れてしまい「片道500kmくらいなら何も感じなくなりました」と、ロングドライブへの対応力も高まっていったという。

「悪天候の時も、やる気が漲っていれば行く方向で、現地でヤバそうだったら撤退すればいいね、と思いながらの登山でした」と、少し無理もあったそうだが、実際に現地で撤退/中止したのは谷川岳と岩手山、御嶽山(摩利支天)の、3回のみで済んだそうだ。

 

いよいよ目の前に迫った「その瞬間」

そして迎えた2018年、残っていたのは鹿島槍ヶ岳、間ノ岳、北岳の3座。多くの100名山達成者は、最後に登る山を早い段階で決めていることが多いが、unchikutareoさん一家はどうだったのか? 質問を向けると、「残した」と「残った」の中間くらいのようだ。

「本来は、もっと早い時期に登っているはずの山でした。登れる山を登って、最後10山くらいになった時に『さぁ、どこを最後にしよう?』と悩みました。最後まで鹿島槍ヶ岳と北岳、どっちが最後になるかは微妙でしたが、天気などの都合で最後に残ったのが北岳と間ノ岳になりました。もちろん、日本の第2位と3位の高峰なので、最後になればなぁとは思ってましたが、良い山が残って良かったな、と思ってます」

そして2018年8月15日、ついに日本第2位の高峰、北岳で長い旅はフィナーレを迎えたのだった。

「完登時はあいにくの天気で山頂に人は非常に少なく、本来は『好天でたくさんの登山者に祝福されるイメージ』だったので、やっぱり現実は厳しいなという感じでした(笑)」と笑うが、その様子は、ぜひこちらの登山記録をご覧あれ!

「山頂で完登の余韻に浸りたいところだけど、じっとしていると凍死しそう」な天気だった(100座目・北岳) ⇒登山記録はこちら


記録だけを見ていくと、順調・着実に計画を遂行していったように見えるが、実際はどうだったのだろうか? また、途中で諦める気持ちはなかったのだろうか? そんな話を向けると、気持が揺らぐことはなかったそうだ。

「途中で大怪我でもすれば考えたでしょうが、本気で『無理だな、諦めよう』と思ったことは全くなかったです。息子は『50座で辞める』『60座で辞める』と口では言っていましたが、登山中は元気なことが多かったです。一人だけ留守番となるのが嫌だったこともあるようですが・・・」

百名山踏破を目指す登山者は多いが、途中で諦めるケースは多い。それを乗り越えた理由については、家族全体のレベルアップと、綿密な計画によるところが大きかったと分析する。

「半分を過ぎた頃から、気軽に行ける山が減って、難易度が高い山や遠方の山が増えてきます。その辺りから、うまく進まなくなってくる方が多いと思いますが、やはり遠征を計画的に組み込んでいたのがよかったと思います。やはり行き当たりばったりの計画だと難しくなるのではないでしょうか」

そして付け加えるのが、目標達成以上に登山の楽しさ、魅力が高まっていったことを強調する。

「我々の場合、後半は登山能力も向上したうえに、アルプス系の素晴らしい山を残していたので楽しさも高まってきました。それまでなら無理だったアルプス系の日帰りも可能になり、自分たちの成長を実感することで、うまい具合に回りました」と、成長を感じながらの目標達成だった。

 

それぞれにとっての想い出の山・想い出の地

すべての山にそれぞれの想い出があるが、家族の個々に思い出に残った山・場所を挙げてもらった。

最年少の息子さんは、「剱岳」を挙げた。その理由に「カニのタテバイ、ヨコバイもあって達成感がすごかった。下山時に劔沢から振り返った時、かっこよかった」と、百名山の中でも最高難度の山での充実した登山を選んだ。また、「露天風呂最高だった!」ということで、三斗小屋温泉も挙げた。

勇気を振り絞って制覇した剱岳(96座目)は満足感でいっぱい! ⇒登山記録はこちら


続いて娘さんが挙げたのが笠ヶ岳だ。「槍から西鎌尾根を縦走してきたけど、ガレ・ザレが滑りそうで怖かった。そのトレースを小屋から見られて嬉しかった。ダイアモンド槍も見られたし――。何より、笠ヶ岳山荘の方が親切で、また来たいなと思った」と選んだ理由を説明する。

前日歩いた西鎌尾根を望む景色に感動の笠ヶ岳(67座目) ⇒登山記録はこちら


そして奥様が挙げたのは、旅の最終盤となった鹿島槍ヶ岳で、お父さんも一緒の山行だった。「実父と登った初めての北アルプスでした。とにかく天気と景色が素晴らく、登山の良し悪しは天候によると思いました。実は前年は父と白山に行きましたが、酷い天気でした。(鹿島槍ヶ岳では)実父も喜んでくれてよかった」と、親子3世代の旅行が想い出になったようだ。

素晴らしい天候に恵まれた鹿島槍ヶ岳(98座目) ⇒登山記録はこちら


一方、ご主人が挙げるのは、苦い思い出&撤退となった岩手山だ。「無理して行った残雪期の岩手山は、晴れてるのにド強風! 山頂まであと50mくらいだったのに登頂できなかったのは、今となってはいい思い出です。大人でも決死の風でした。山はコンディションで難易度が大きく変わることを実感した登山でした。そういえば、このときは子連れの人は誰もいませんでしたね。焼走り国際交流村キャンプ場に設営していたテントが吹っ飛ばされていたのもいい思い出です」

頂上まであと50m! という地点で無念の撤退となった岩手山 ⇒登山記録はこちら 


また夫婦での想い出の場所として挙げたのは宮之浦岳だった。「初めての遠征。静寂の中、憧れの縄文杉を見られたし、初めてのガイド登山、テント泊だった。麓は鹿児島の気候なのに、頂上は青森の気候なのにビックリしました。百名山の中でも、他に似た場所がない唯一の山です」

そして家族の想い出の場所に挙げるのが双六小屋だ。「槍笠縦走、黒部五郎鷲羽水晶縦走、いずれでもお世話になった。ケーキに、あんかけ焼きそば、おでん、夕食の天ぷらも美味しかった! 乾燥室も強力で助かりました」

 

滑落・撤退・喧嘩・・・、想い出事件簿7選

もちろん、百の想い出があれば、良い想い出ばかりではない。そんな「いろいろな意味での想い出」となったのは以下の7つだが、登山記録と共に、その理由も確認してほしい。

蓼科山(23座目):3月の残雪期。下山中に娘がスリップして雪の登山道を20mくらい滑落。そのシーンを目撃した息子は衝撃を受けて絶叫していた。

飯豊山(84座目):日帰りの強行日程で無理した中で、往路で熊らしき黒い影を子供が発見。下山では無理がたたって、ご主人が熱中症を再発し動けなくなった。しかも、ちょうど熊らしき影を見た山中で・・・。停滞中に日没してしまい、家族は無事に帰れるか、熊が出ないか、かなり不安になりながらの一日だった。20時頃に下山、行動時間は15時間になった!!

写真では元気いっぱいに見えるものの、大苦戦だったという飯豊山(84座目) ⇒登山記録はこちら


幌尻岳(89座目):新冠陽希コース名物の20キロ林道をテント泊重装備で突入し、ほんとうに疲れた。挫けそうになるとZardの「負けないで」を家族で歌っていました。途中で見たキタキツネは可愛かったし、小屋での自炊もうまくできたけれど、肝心の登山は登山道が崩壊気味で整備不良のところもあり、山も弱雨とガスで景色イマイチ。景色よかったらなぁ~と思う。

斜里岳(71座目):台風通過直後で川の水量が半端なかった。息子は、ちょっと怖かったらしい。

朝日連峰(58座目):5月の残雪期。下山時に分岐を間違え直進。他の登山者から呼び掛けられ間違いに気づく。あのまま行っていたらヤバかった。

八ヶ岳(37座目):途中、登山道が崩壊? していたあたりで道がわからなくなり、GPSを頼りに林の中をショートカットして登山道に復帰。娘は怖かったらしい。

ご主人と娘さんの確執:日帰りロング山行の時は毎回、ハードスケジュールを組んだご主人と、早く安全に帰りたい娘さんとでイザコザ(無理な日帰り登山は嫌だ!など)が勃発。娘さんはライトはあっても暗くなるのが嫌だったらしい。

暗くなるとご機嫌斜めになるそうだ。気持ち、わかります(77座目・塩見岳) ⇒登山記録はこちら

 

百の山・百の想い出――、子供の成長と家族の絆を高めた5年間の旅

多くの時間を、百名山達成に捧げたunchikutareoさん一家、この5年間で得たものは想い出や達成感だけでない。下の子は幼稚園だったものが小学5年生、上の娘は小学2年生から中学生へ――。成長を感じないわけがない。それについて、ご主人は「『我慢強くなった!』と息子は自分で言ってますが・・・」と前置きして続いた言葉は、やはり手放しに成長を実感する。

「実際、長時間行動、悪天候での行動も多く、通常だったら音をあげる場面でも動じなくなりました。少なくとも体力は非常について、熱を出さなくなりましたし、山で遠くを見るせいか視力が悪くなりません。山の動植物の知識は格段に増え、登山でのマナーなども身につきました。当初は全く景色に感動しませんでしたが、次第に絶景に感動してくれるようにもなりました。実際に日本全国の山々を見たので、社会科で勉強する地理や環境問題などを、実感として感じられたのは良かったと思っています」

最難関の1つ、北海道・幌尻岳は89番目に踏破! 渡渉箇所は慎重に進む ⇒登山記録はこちら


そして最もかけがいのないものが、やはり家族一丸となって旅を続けられたことだろう。

「往復含め山行中は家族ずっと一緒で、泊まり登山だと家族全員で寝られて父親としては嬉しかった。家族はイビキがうるさかったらしいですが・・・。登山のおかげでしょうか、おかげさまで家族の会話は豊富な方だと思います」

と、家族仲の良さを挙げる。そして、家族同士の思いやりの気持ちが高まったのも大きい。

「普段の生活と違って、登山中は親も弱い面や失敗を意図せず晒すことになります。熱中症で動けなくなったり、重装備でヨロヨロしたり、高山病で子供にザックを持ってもらったりもしました。子供も弱っている親をサポートしようとしてくれて、助け合いの気持ちは強くなりました。絆は間違いなく深まったと思います」

 

達成、そしてこれから――

達成から約二ヶ月、今はその長い旅を振り返る日々だ。

「達成の時も興奮したけど、下山後の風呂で過去の山行を振り返って、『本当に達成しちゃったんだな~』とジワジワ実感が湧いてきました(ご主人)」、「家族全員で百以上の思い出ができました(奥様)」という中で、娘さんは「達成の時、頂上に人が少ないわ、天気悪いわで、もう少し天気の良い時に行けたら良かった」と、完成の瞬間が不満の様子だが、達成感を感じないことはないだろう。

また、奥様もご主人も「もう一度、良かった山や、天気が悪くてイマイチだった山をゆっくり登ってみたい」という。ぜひ、家族団らんの登山を続けてほしいものだ。

最後に、百名山達成者や、家族で登山を楽しんでいる方々に、ご主人からメッセージを頂いた。

「登頂の定義とはなんぞや? とか、ロープウェイなどを絶対使わないとか、特に男親は色々条件を厳しくしたくなります。でも家族登山では、まずは安全が大事だと思います。我々も日程の都合上かなり無理をしましたし、結果オーライの部分もありました。登山力は個々の家庭で皆違うはずですし、ご存じのように同じ山でも季節や天候で難易度は全然変わります。他人の登山レコは参考にしつつも、全面的に信用しないことも大事です。『この家族が行けるのなら、うちも大丈夫だろう』と安易に考えずに、自分たちの登山力を冷静に評価してください。怖くてつらい体験ばかりだと子供も山嫌いになってしまいます。そして、家族で山を思いっきり楽しんでください!」

★unchikutareo さんの全記録はこちら!

達成後、初めての百名山だった四阿山に再訪、家族全員が心身ともに大きく成長

 

子どもと一緒に山、行こう! 親子登山のススメ

子どもや孫といっしょに山に登ることは、登山愛好者にとって1つの夢ではないだろうか? しかし、子どもの気持ちを山に向けることができるか、安全な登山を伝えられるかなど、疑問や悩みも多い。親子登山に役立つ情報を、さまざまな角度から伝えていく。

編集部おすすめ記事